金属アレルギーが出ないという理想郷

 生体エネルギー ®という技術がある。 長野県東御市に ある生体エネルギー研究所の佐藤政二所長が50年以上にわたって研究し、 理論化し、 実践してきた技術である。 この技術は農業から始まっている。 連作障害を克服するために「土」という環境(生態系)を良くすることによって植物本来の生きる力を機能させたことがきっかけであった。農業の基本である土作りでは、 炭素を骨格とする有機物に加え、 鉱物、 金属、 塩類、 水等の無機物も使いこなさなければならない。 つまり、 よい農作物をつくるには、 有機物 ・ 無機物の能力を上げる必要があると考え、 佐藤所長はそれを実現させたのである。 人間や動植物には個性があり、 よい環境に置かれれば能力が上がる。 それと同じことを微生物や無機物にまで応用したのである。 それはやがて、 水の能力を上げるツール(水誘導翻訳装置)、電気の能力を上げるツール(電気誘導翻訳装置)への開発へとつながる。 水がよくなると(生体エネルギー理論の用語を使えば、 水の準拠位置が高まると)、その水に触れたものの能力も上がる。 電気がよくなると、 その電気を使った電気器具の能力も上がる。 電気器具の能力が上がれば、 その器具を使って加工したものの能力も上がる。 それを応用して、金属の能力を上げることによって、 金属アレルギーがほとんど出ないアクセサリーをつくっている企業が山梨県にある。

金属アレルギーが出ないアクセサリー

 金属アレルギーは、 金属が原因で起こるアレルギーである。金属が汗などの体液に触れると金属成分が溶け出し、 金属イオンになる。 この金属イオンが皮膚から体内に入ると、人体が本来持つタンパク質と結合し、もともと体内にはないタンパク質ができる。 身体がこれを異物と認識し、 排除するための免疫機能が過剰に働くのが金属アレルギーである。 金属との接触部に起こる接触皮膚炎(かゆみや発疹、水疱などのかぶれの症状)が代表的であるが、 金属イオンが血流によって全身に運ばれると全身性皮膚炎を起こすこともある。

 そして、 生きている限り、 できた抗体がすぐに消えることはないため、 現代医療では、 金属アレルギーの原因を短期間で根本的になくすことはできないと言われている。 辛い思いをしたくなかったら、 アレルギーの原因となる金属を避けるしか手段はない。つまり、 一度発症したら、少なくともその金属のアクセサリーは当分の間つけることができないのである。

 ところが。山梨県北杜市にある、 社長を含めても従業員が15人という小さな会社、 株式会社内藤責金属製作所。 ここで作られているアクセサリーは、すでに金属アレルギーがあってジュエリーを着けられない人でも96%が使用できる製品になっている。つまり、 現代科学では不可能とされている理想郷がここに存在しているのだ。そして、その不可能を可能にしたのは、生体エネルギー技術と、悩みに悩んだ末に大きな決断を下したひとりの経営者である。

「生体エネルギーが」新しい価値をつくる

 アレルギーの原因となる金属イオンは、金属がイオン化した状態のもの。イオン化とは、原子が電子を失う、または電子を受け取ることである。一方、生体工ネルギーは「個の単位を継続する力、生きた体(生体)をつくり続ける力」である。生体エネルギーを高めることができれば、金属の(ニッケルならニッケルの、亜鉛なら亜鉛の)個の単位を継続する力が強くなり、イオン化しにくくなる。従って、汗に触れても溶けにくく、体内のたんぱく質と反応して異物として認識されるものが生成される確率も低くなる。また、生体エネルギー準拠位置の高いアクセサリーは、身に着けることによってその人の能力を高めるため、抗体が過剰な反応をする可能性も低くなる。つまり、金属アレルギーが出ないアクセサリーは、生体工ネルギーの世界では、決して不可能なものではない。理論的に充分実現可能なものである。

 しかし、それを実現させるには、それに真摯に取り組む人もまた必要である。内藤大二代表取締役社長。1964年生まれ。大学を卒業してすぐに、父親が興した、ジュエリーの開発・製造企業、内藤貴金属製作所に入社した。当時はバブル絶頂期。貴金属を仕入れ、それをジュエリーに仕立て上げて販売するビジネスが儲かってしかたがなかった時代であった。しかし、間もなくバブルは弾けた。8年前、父親が亡くなった後を継ぎ、彼が2代目社長に就任したときも、そしてその後も、市場は小さくなっていくばかりである。バブル期には小売ベースで3兆円あった宝飾品市場は、 今は 9,600億円。3分の1以下に なっている。原材料費が5倍に高騰していることを考慮す ると販売数量は70数分の1である。競争がどんどん激化し、加工工賃が価格競争に陥り、利鞘が薄くなり、このままでは従業員を養えないと内藤社長は大きな危機感を抱いた。

 彼は、付加価値がつく(価格競争にならず、自分たちで価格を決めることができる)商品開発を目指す。当時は「健康ジュエリー」が業界で追求され始めた時期。彼は、着けているだけで血液がサラサラになるジュエリーを作ろうとした。今から思えば怪しげな技術も含め、さまざまなものを試す中、生体エネルギーと出会う。約800万円で電気誘導翻訳装置「さとり」L-W2、P-W2を導入。しかし、思った結果は得られなかった。材料として使っている金属の生体工ネルギーの劣化が想定よりも遥かに大きかったため、設備の能力が足りなかったのだ。結果が出ていないのにさらに追加投資か…といったんは悩んだが、すぐにさらなる一歩を踏み出した。工事費を含めて、1,400万円を追加投資し、高圧用の電気誘導翻訳装置「さとり」H-W3を追加導入。すると、結果が出た。本当に血液がサラサラになったのである。「付加価値」どころではない。どこにもない、まったく新しい価値がここに誕生した。その後にさらにH-W3と工業用「さとり」を追加導入した。

 しかし、その頃、法律が厳しくなった。「血液がサラサラになる」とは謳えない。源株式会社の芦沢氏の提案で金属アレルギーの実験を行った。約100人のアレルギー対象者を募り、925シルバー製の指輪を2週間にわたって使用してもらった。96%に何も問題が出なかった。しかし、 それでも売れなかった。せっかく、いいモノができたのに売れないのだ。

「さとり」の電気で溶かすことで金属の能力が上がる

価値を伝えるために、 絶対に値引きをしない

 ここでもうひとつの転機が訪れる。生体エネルギー綿を使った布団を販売している株式会社アイアイとの出会いである。

 数十万円の健康布団(しかも、素材は、羽毛布団のように、一般的に高級と認知されているものではない)を売り捌くプロフェッショナル集団に任せたら、小売価格が十数万円から80万円のネックレスが、毎月コンスタントに売れるようになったのである。「健康布団」を扱う販売のプロたちは、「健康ジュエリー」の価値もきちんと伝え売り上げることができるからだ。また、アイアイは、メーカーという立場ではなかなかできない「販売商品の絞り込み」も実践している。当初は「健康指輪」も扱っていた。しかし、指輪にはさまざまなサイズがある。太ったり痩せたりしてサイズが変わることもある。彼らが健康ジュエリーを売ってもらう店(宝石店ではない)には、負担が大き過ぎて、指輪販売は馴染まないのだ。しかも、首にかけるネックレスのほうが、指にする指輪よりも、健康への寄与が高い。いまアイアイは、内藤貴金属の「健康ネックレス」を専門に扱っている。

 彼はそこで気付いたと語る。顧客に価値を伝えることができる人が売れば、ちゃんと売れる。逆に言えば、それは、メーカーである自分たちには難しい。できる人に任せるしかない。

 従って、 内藤貴金属製作所の対消費者直接販売はネットのみで、ごく僅か。ジュエリーの企画開発会社を顧客とし、その注文に応じてジュエリーを開発・製造して納入することに専念している。彼らに対して、生体エネルギー理論の説明をしてはいるが、どこまで理解してもらえているかはわからない。従来製品と同じ素材を用いながら金属アレルギーが出ないというのが、 あまりにも常識離れしているからである。しかしそれでも、何らかの価値を感じて買ってもらえている。同業他社よりも高い見積りを出す。そして、いっさい値引きをしない。それでも買ってもらえているのだ。実は彼のこの方法、マーケティング理論的に、とても正しい。簡単に値引きされるものに人は価値を感じないからである。逆に、 値引きしないからこそ、 より高い価値を感じてもらえるのだ。

「生体エネルギー」がビジネスそのものも変えた

 内藤社長のもうひとつすごいところは、 その経営方針を徹底していることにある。他社より高い見積りを出し、絶対に値引きをしないというスタンスは、取引の長い顧客にはほぽ通用しない。その結果、親の代に400 社ぐらいあった山梨県内外の古い顧客は、もう数社しか残っていない。株式会社アイアイを含め、 東京・大阪・京都を中心に、ほぼ新しく獲得した顧客だけでビジネスを成立させている。その結果、売上は下がっても、十分な利益が確保できている。生体エネルギー技術を導入して、一番変わったのは、自分かもしれないと内藤社長は言う。ビジネスとしての結果が出たことから、心に余裕ができた。従業員への接し方も変わったし、従業員の仕事に取り組む姿勢も変わった。従業員が生体エネルギーをわかっているとは限らないが、 みんな楽しんで働いているそうだ。

 そして、どこにもない新しい物を考え産み出す力(生体エネルギー理論では、想像と創造を掛け合わせ、「想造力」と呼ぶ)が高まっているのも感じているらしい。新しいアイディアが次々と浮かんで来ると彼は言う。また、そうでなければ、ジリ貧不況の宝飾品業界でこれからも 生き残り、発展していくのは難しい。「金属アレルギーが出ないのは素晴らしいことですが、実は、金属アレルギーのお客さま向けの市場というのは存在しません。金属アレルギーの人たちはそもそもそういうアクセサリーを着けないんです。それは、蕎麦アレルギーの人が蕎麦を食べないのと同じです。」

 「価格競争をしたくないから、自社で開発するものは、すべて特許が取れそうなものに限っています」と語る彼はいま、業界に新しい風を吹かせるような新商品を開発中だそうである。2017年5月中に市場に提案する予定の商品は「つけて楽しい、見て楽しい」に加えて、物理的な機能の付加価値もある(「楽しみがもうひとつ」ある)商品。今までになかったようなアクセサリーらしいが、「これから提案するものなので、 ごめんなさい、それ以上は言えません」。この文章が読まれる頃には、その製品がジュエリ―市場にデビューをしている可能性もある。

 また、 異業種へのチャレンジも進行中である。 革製品とジュエリーを組み合わせた新商品を開発するために、 革を縫える業務用ミシンなどを購入した。「純粋なジュエリーメーカーで、業務用の革ミシンや付属設備を持っているところは今のところないと思います」と内藤社長。 第一弾として考えているのは、革の小銭入れ。そのボタンの部分を、趣向を凝らしたコンチョボタン(金属製の飾りボタン)にして、そこに得意の生体エネルギー技術を活用した金属加工技術を投入する。もちろん、革製品をつくる過程(たとえば、革を漉いたり、革を乾燥させたりする工程)に使う電気も、生体工ネルギー準拠位置の高い電気である。

 

 生体エネルギー技術に興味を持った友人と3人で別会社も起ち上げたそうだ。ヴァイタローラ株式会社。ヴァイタローラ(Vitalaura)は、ラテン語のvitalis(生命の)とaura(風 ・輝き)を組み合わせた造語。「ジュエリーで人を勇気づけ、生命の源から美しく輝いてもらいたい」という事業コンセプトを象徴している。主力商品はネイチャージュエリー。地球が数千万年、数十億年をかけて作り上げた、あらゆる形の天然石に、その形状に合わせた金属製の枠をつくり、アクセサリーに仕立て上げる。最新の3Dデジタルテクノロジーを応用し、これまで製作が不可能だった異形石にもジャストフィットする貴金属装飾枠をつくる技術は、この会社オリジナルで、トップブランドメーカーとも取引継続中である。また、生体エネルギー技術を使い、ワインの味をまろやかに変化させる製品の試作品も完成している。

 

 生体エネルギー技術の発展とともに内藤貴金属製作所がこれからどう発展していくかがとても気になる。しかし、それ以上に、内緒にされた新商品が気になる。

(本記事は2017年に執筆されたものです)