植物と建物は似ている。どちらも、自分ではその場から動くことができない。周りの環境の変化を克服する能力が生存の可能性を高める。言い方を変えると、その植物(建物)が無いと困ると思われたら、生き続けることに周りが協力してくれるようになる。だから、農業と不動産賃貸業は相似形である。そんなことを考える人はあまりいないかもしれない。しかし、その視点を持つがゆえに、農業から生まれた技術を不動産賃貸業に応用できているものがある。生体エネルギー®という技術である。長野県東御市にある生体エネルギー研究所の佐藤政二所長が 50 年以上にわたって研究し、理論化し、実践してきた技術である。農業の連作障害を克服するために、「土」という環境(生態系)を良くすることによって植物本来の生きる力を機能させたことがきっかけであった。農業の基本である土作りでは、炭素を骨格とする有機物に加え、鉱物、金属、塩類、水等の無機物も使いこなさなければならない。つまり、「よい農作物をつくるには、有機物・無機物の能力を上げる必要がある」と考え、佐藤所長はそれを実現させたのである。その技術をマンションに応用し、不動産賃貸業界に新しい波を起こそうとしているのが、豊大株式会社である。
高齢者がどんどん元気になるマンション
愛知県豊田市、名古屋鉄道浄水駅の目の前に立つ 7 階建ての賃貸マンション「エスライフ浄水駅前」。生体エネルギー満載のこのマンションが、不動産賃貸業界の常識を変えようとしている。
土地所有の概念の発生とともに古代からあった不動産賃貸業。いま日本ではこの業態が曲がり角に来ている。物件の建設過剰と少子化の影響により、全国で空室が年々増加しているのだ。また、これからますます加速する少子高齢社会では、高齢の入居者が確実に増加する。しかし、この対策に本格的に取り組めているところは数少ない。具体的な方法を見つけられず、リスクが大きく、取り組むメリットを見出せないでいる。
豊大株式会社の荒川洋一代表取締役。 1962 年生まれ。彼はそこに真っ向からチャレンジしている。2010 年に建設したマンション「エスライフ浄水駅前」全 7 フロアのうち 3 フロアを高齢者対象の賃貸住宅として整備したのである。そのうち 1 フロアはサービス付き高齢者向け住宅であるが、残りの 2 フロアは、高齢者が普通に入居している。
そして、ここでは、入居した高齢者がどんどん元気になっていっている。「歩行が楽になった」「膝の痛いのが取れてきた」「手足のしびれが取れた」「むくみが取れた」「よく眠れる」「食事がおいしい」「食欲が出た」「風邪にかかりにくい」「目がよく見える」「前向きになった」。さまざまな声が上がっている。ただ元気になるだけではない。キレイになってもいるようだ。「シミが薄くなった」「丸くなって豊かな容姿になった」「色が白くなった」「髪の毛が艶やかになった」。高齢者向け住宅の理想郷がここに実現している。
酪農からワンルームマンションヘ
荒川家は戦後、長野県から現在の豊田市浄水町に県の開拓事業により入植した。しかし、重粘土の赤土でしかも石が多い酸性土壌での畑作は困難を極めた。入植の数年後には、酪農へと主力を移行。荒川代表は、北海道の大学で農学を学び、卒業後就農。県内でも優秀な産乳量の牛群を作り上げた。しかし、地下鉄の駅が畑の前にでき、市街化事業が始まった。市街化区域内での畜産は騒音・臭気等の問題があり基本的に不可能である。移転先を探したが適地は見つからない。農場・畑の資産を活かした不動産賃貸業への転身を決意した。
少し話はそれるが、その 20 年後、彼は、実はそれが不可能ではなかったことを知ることになる。大阪府堺市、駅からわずか数分の住宅地で、肉牛を肥育している原野牧場を視察。生体エネルギー技術を使えば、「牛のストレスが激減し、臭いや騒音もなくなる。だから、その敷地に賃貸マンションすら、当たり前のように建てられる。常識では考えられない事業スキームが現実にできる」ことを体感した。
転身を決意した彼は、まだ当時珍しかったワンルームマンションの建設を計画する。近隣の農家に乳牛を売却し終わり、管理する必要がなくなった日から、全く未体験の分野である宅地建物取引土資格取得の講習会に通う。ゼロからのスタートである。1989 年に 5 階建て鉄筋コンクリート造ワンルームマンション 60 戸が完成。周りの環境が住宅不足だったこともあり、満室状態が続く。翌年には 780 台の駐車場経営も始めた。
家賃を払いたくないわけではない
賃貸事業では、家賃滞納が深刻な問題になる。賃料が入らない上に、部屋を専有されていて他の入居者を入れることもできないからである。入居時の審査をいくら厳しくしてもそれは起きる。契約期間が何年にも渡る賃貸借契約では、入居後に様々な理由で、本人やその周辺の状況が変わってしまうからである。
もちろん、滞納している入居者の多くは「賃料を払わなくてはならない」と思っている。しかし、「熟睡できないから朝起きられない」「気分が落ち着かない」「自信が持てない」「なんとなく体調がすぐれない」等々、収入を得る前提条件に問題を抱えていることが多い。安定しバランスのとれた生活リズムを得られないと、「家賃を払ってほしい」と請求しても「ない袖は振れない」ということになる。
ここに大きな可能性がある。「住めば住むほど入居者の能力が高まる賃貸住宅」ができれば、入居者が元気になり、滞納は起きにくくなる。もちろん、それだけではない。その先にもさらに大きな可能性が待っている。
水が建物全体を変え、入居者を変えた
生体エネルギー技術に出会った荒川代表は、まずワンルーム 60 戸に水誘導翻訳装置「きわみ」( Ml-5型 )を導入した。すると、家賃の滞納がほとんどなくなった。滞納していた人が滞納分を加えて少しずつ入金を始め、通常の家賃ペースに戻ったのである。ある入居者と話したところ、「体調が良くなった。以前はよく眠れず、下痢気味で出勤が億劫で、職場でも不安だったが、最近は良くなったので、残業も平気で受けられるようになった。上司が頼りにしてくれるようになったので、今の職場でがんばろうと思う」と言っていたそうである。水を変えたことは入居者には伝えていない。入居者のカラダが変化を感じ取っている。
影響があったのは入居者だけではない。建物も変わった。経年変化による給水管の錆が止まり、黒錆に変化した。30 年近く経っても給水のトラブルがほとんどない。深夜温水器の鉄製タンクが、錆からピンホールが空き何台かで水漏れが発生していたが、「きわみ」導入後なくなった。また、排水管の油汚れのため排水不良が起きていたが、これもいつの間にかなくなった。建物のコンクリートの打ちっ放しが汚れにくくなった。ペンキのチョーキング現象(壁を触ったときに手のひらに白い粉が付いてしまう現象)が起きるのも遅くなった。物質の劣化・必要以上の酸化による崩壊がしづらくなったのである。これだけで「きわみ」の購入費は回収できたと彼は考えている。
また、当時、150 トンの合併処理槽で排水を処理していたが、「きわみ」を導入してから、沈殿する汚泥の引き抜き処理が必要なくなった。通常、排水の合併処理槽では、空気で曝気し、液中に含まれる有機物を細菌が食べてその残洒が沈殿する。これが汚泥である。しかし、生体エネルギーの高い水では、微生物や細菌が活性化し、今まで分解できなかった有機物まで有効な餌として分解してしまう。だから、汚泥が出なくなる。愛知県田原市のオール有機質肥料纂株式会社は、この理論を応用し、とても良質な堆肥を生産している。微生物の能力を高めることができるから、京都府京丹後市の有限会社創造工房がつくる黒ニンニク「フルーツガーリック」は、世界のトップシェフたちが大絶賛する味に仕上がっている。
そして、生体エネルギー満載のマンションヘ
築 12 年以上のマンションに生体エネルギーの資材を投入しただけで、これだけの変化が起きた。ということは、未来永劫必要とされ続ける賃貸物件を建てることが、生体エネルギー技術で実現可能であると荒川代表は確信した。次は、これまでにないものに挑戦すると彼は決めた。そうやって生まれたのが、エスライフ浄水駅前である。
彼はマンションのプランニング段階から徹底的に全てを活かすことを考えた。設計土・工事関係者・仲介業者など、関わる人たちに生体エネルギーを理解してもらい、同時に、彼らのエネルギーレベルがどうやったら高まるかを考えた。生体エネルギーの農産物を食べてもらったり、彼らの環境を改善するための具体的な手を打ったりもしたのである。
建物構造から環境を高めるため、コンクリート工場に「きわみ」を 6 台設置。工事に使われた総量 6,500㎥(ミキサー車 1,300 台分)のコンクリートはすべて「きわみ」を通した水に、「力丸」を加えて練った。現場工事を始める前に、作業現場の空間環境を高める「しらべ」と電気誘導翻訳装置「さとり」を設置し、全ての構造物と部屋のエネルギーを高めた。37本埋設した地中杭の最深部に「底力」と 3 種類の自然石を投入。杭をエネルギーストローとして機能させ、生命に不可欠な地球の核の情報・エネルギー・同化力を建物に満たし続ける仕組みを構築した。完成したマンションにも、当然のように「きわみ」「さとり」「しらべ」が導入されている。
これまで高齢者用の住宅は、医療サイドから入った、リゾートのように豪華なもの(家一軒分の費用がかかるかわりに、植物状態まで介護してくれるもの)か、介護業者がつくったもの(介護メニューは豊富だが施設的に病室に近く、プライバシーに制約があるもの)がほとんどであった。エスライフ浄水駅前は、そこに、不動産賃貸業から本格的に参画した。生体エネルギー理論と技術をフル活用することで、高齢者が「正常・健康・健全・豊かになる」まったく新しい賃貸住宅をつくりあげている。
現場で使われている電気は工具から証明まで全てこの電気である
名古屋市内のマンションではストレスを感じているが、エスライフ浄水駅前ではストレスがほぼ無いという結果に。
部屋ことに異なるニーズに対応する
そのメリットを享受しているのは、高齢者だけではない。それ以外の入居者からもさまざまな喜びの声があがっている。「子供が超元気で楽しむようになった」「乳児の夜泣きがとても少ない」「ほこりや臭いが少ない」「パンが再発酵する」「生ゴミが乳酸発酵する」「野菜や生鮮物が長持ちする」「しなびたバジルが一晩でシャキッと戻った」「暑さが違う」「陶磁器が堅い音を出し輝きが増した」などなど。また屋上菜園では、たった 15cm の土で「品質の高い野菜が栽培出来る」「明日葉が雪に埋もれても越冬した」そうである。エスライフ浄水駅前では、さまざまな不可能が可能になっている。
2 階に入居していた学習塾「個別指導 Axis 」の子供たちの受験成果が、どうやらかなり良かったらしい。それを聞きつけた「個別教室のトライ」が、2016 年 7 月、同じフロアのさらに広いスペースに入居した。Axis の生徒は「ここは空気が違う。あっという間に勉強時間が過ぎる」と言う。落ち着いて勉強に集中できる環境が完成している。
生体エネルギーは加算の理論である。資材を足せば、さらに高い目的やまったく新しい目的も達成できる。どこまでも加算ができ、どこまでも可能性が拡がる。しかも技術は日進月歩し、次々に可能性が高まり続けている。たとえば、部屋ごとに異なる能力を提供することも可能になっている。実際に荒川代表は、高齢者で薬の作用もあって、尿の臭いが非常に強い入居者の部屋に生体エネルギー技術の加算を行った。すると、臭いが気にならなくなり、退去しなくても良くなった。本人も、さらに体調が良くなったと言う。目的に応じた加算が有効に機能することを確認できたのである。荒川代表は語る。「ここまででいいと思ったら、それは、維持ではなく停止です。時代が進めば、さらに新しい必要がたくさん生まれて来るからです。その必要を満たし続けることができたら、古いことすら高い価値として提供することが可能になります。これもまったく新しい市場です。住めば住むほど、住む人のあらゆる可能性を引き出し『豊かになる賃貸物件』をこれからも作り続けていきたいと思っています」。
(本記事は2017年に執筆されたものです)